もともとは、デザイナーとして入社されたそうですね。

デザイナー兼エンジニアですね。現在の肩書は、pixiv運営本部 本部長・新技術プロジェクトプロデューサー、執行役員ですが、入社時はUIデザイナー兼エンジニアです。ピクシブに入社する前は、音楽業界で10年ほど、Webデザイナー兼エンジニアとしてアーティストのオフィシャルサイトなどを制作していました。デザインもシステムも丸ごと、一人でサイトを制作していました。

プログラミングのスキルはどう身に付けましたか?

ほぼ独学です。最初はMV(ミュージックビデオ)のディレクターを目指して専門学校に入って、映像を学びました。
そして、当時日本でいちばんたくさんMVをつくっていた制作会社に入社。その時はWebデザイナーの採用枠しかなかったので、Webデザイナーとして入社してサイトの制作を始めました。そこから必要に迫られてJavaScriptやFlash、PerlやPHPなどを独学で身に付けました。2005年にRuby on Railsが誕生するとどっぷりハマってしまい、仕事で実践投入したら執筆依頼がくるようになって、Ruby on Railsの本も出版しました。

なぜ、転職しようと思ったのですか?

30歳を目前にして、自分の力を試してみたくなったんです。
よりクリエイティブな世界で勝負をしたいと思うようになりました。ピクシブは、自社サービスを持つ事業会社ですし、創業メンバーの一人が高校の同級生だったこともあり、ずっと興味がありました。

これまで、本当に多くの新規事業を立ち上げていますね。

もちろん私一人で立ち上げてきたわけではありませんが、リーダーとしてBOOTH、pixivFACTORY、pixiv Sketch、APOLLO、Pawooなどの先進的なプロダクトの立ち上げに携わってきました。命を削って新規事業を立ち上げています(笑)。そして、一番新しいのがVRoidです。入社して最初のプロダクトは一人でつくりましたが、その後はチームで開発しています。
今では自分でプログラミングをすることはほとんどありませんが、常に技術は追いかけていますし、技術選択の判断もしています。

命を削って…新規事業立ち上げのエネルギーはどこから?

新しいものがとにかく好きなんです。それはなぜかというと、新しいものは今までにない価値を提供しているから。新しいものとは、未来を具現化したものです。VRoidも、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)が当たり前になる未来を具現化したものと言えます。実際に、VRoidStudioには予想をはるかに超えるニーズがありました。2018年7月にVRoid Studioβ版の先行利用者を募集した時は、1000名も集まれば上々と思っていたところに4万5000名もの応募がありました。さらに、デモ動画を公開すると再生回数が数日で100万回に達し、コメント欄が英語だらけになるなど海外からも大きな反響がありました。日本のようにVチューバ―ブームがない国にも、3Dでキャラクターをつくりたい人がこれほど多いのかと驚きました。

VRoidは、少人数で、しかも相当な短期間で開発したそうですね。

当初は、「VR/AR時代の到来に備えて、3Dでなにかやろう」と研究開発的なノリで始めました。その時、想定外のVチューバ―ブームが訪れ、「これは想像以上に早く3Dが当たり前になる時代が来るぞ!早くしないと乗り遅れるぞ!」となり、pixiv Sketchのアルバイトをしていた学生と私の2人で、3Dキャラクター作成ツールの開発を始めました。そこに間もなく、中途入社したばかりのエンジニアも加わり、3名でプロトタイプをわずか2ヶ月で完成させました。

学生が新規事業立ち上げなんて夢がありますね。

VRoid Studioで最も驚かれるのが髪型の作成機能ですが、その開発を担当したのもプロトタイプ開発中に加わったインターンの学生です。内定者向けのインターンでVRoid Studioに興味があると言ってくれ、学生とは思えない技術力もあったので一緒に始めました。
髪型を3Dでつくる難しさは、ゲームキャラクターの3Dモデリングを10年以上経験してきたデザイナーでも「髪が一番大変」と言うほどです。髪型の作成機能に関しては彼を代表者として特許を取得していています。

VRoidは今後、どのような展開を考えていますか?

3Dキャラクターをつくって、登録して、使う(遊ぶ)、エコサイクルのようなものを提供していきたいと思います。現在、VRoid Studio、VRoidモバイル、VRoid SDK、VRoidHubと3Dキャラクターをつくるだけでなく、つくったキャラクターで遊ぶためのプラットフォームまでサービス化しています。今後は、自分のキャラクター(アバター)を持っている人どうしでコミュニケーションが取れるアバターSNSのようなものに発展させ、アバター文化をつくっていければと考えています。そのためには、3Dモデルデータの軽量化や、描画の負荷を下げてもっとキャラクターをつくりやすくして、ユーザーの表現の自由度を高めていくことも必要になります。VRoidがあれば、3Dのプロでなくてもたいていのキャラクターはつくれるというところまで持っていきたいです。

新規事業を成功させるために大切なことは?

まずは事業ドメインを絞り込むこと。ドメインを絞りこめば、今はまだないけど、将来あって当たり前になるものが見えてきます。私はそれを「穴」と呼んでいます。今はポッカリ空いたままになっている穴を埋めることが、新しい事業(プロダクト)をつくるということです。そして穴には多種多様な形があり、その形状を正確に把握(例:マーケットなどを正確に分析)しなければうまく埋めること(課題解決)ができません。しかし、穴の数は無数にある、つまり、解決すべき問題は世の中にいくらでもあり、すべてを解決することは不可能です。そのために、ドメインを絞り込むこと、得意領域を持つことが必要になります。

ピクシブが埋めるべき「穴」とは?

ピクシブのドメインは創作活動にまつわるものであり、そこに限定して、世界中の誰よりも理解し、考え続けているからこそ、誰よりも早く埋めるべき穴を発見することができます。特定のドメインにコミットし続けると、そのドメインとユーザーに愛着もわきますし、ユーザーにそのドメインの理解者として認められ、ユーザーから愛される存在として、愛されるプロダクトを提供できるようになります。

VRoidには現在、何名の方が関わっていますか?新メンバーの募集は?

VRoid部には他のプロダクトと兼任のメンバーもいますが、ビジネス職、エンジニア、デザイナーなど合わせて18名です。エンジニアリングではかなり高度なことをやっていますので、技術に自信がある方、興味がある方がいれば、ぜひ参加してほしいです。新しいメンバーは今後も積極的に募集していきます。ピクシブで一緒に「未来にあって当たり前のもの」を生み出していきましょう。